2006年06月22日

『立喰師列伝』

立喰師列伝

渋谷での公開が終了してしまい、忙しくて観逃してしまっていた『立喰師列伝』だったが、1日1回、20:45からのレイトショー上映のみで明日まで吉祥寺で上映しているというので、駆け込みで観に行った。

押井守の『アヴァロン』『イノセンス』にはガッカリさせられたが、まぁ、映画自体がおもしろくなかったとしても、押井作品の映像は一見の価値はあるだろうとの打算もありつつ、今回は押井本来のテイストっぽいいのでちょっと期待もしていた。

で、観た感想はと言うと
正直なところ「一部の押井ファンのオタクだけが楽しめる映画だな」と思ったな。

『紅い眼鏡』『御先祖様万々歳!』『パトレイバー』『犬狼伝説』と観てきて押井作品を許容しうるオイラには、割合心地よくさえある哲学的虚飾の言葉攻めも、一般人には苦痛か睡魔を起こさせるものでしかないかも知れないし、学生時代の庵野が作ったダイコンフィルム(もちろんウルトラマンを演じているのは庵野自身)や、『紅い眼鏡』のスチールの挿入、『御先祖様万々歳!』の犬丸シーンの再現、『ケルベロス地獄の番犬』のプロテクトギア50体と配置が同じ牛五郎軍団のシーンなど、各所に配置された膨大なオタク向けの記号も、オタクにとってはニヤリとさせられるものではあっても、知らない人にとっては意味不明のものでしかないかとも思われる。

キャスティングにしても、俳優などは一切起用せず、友人やスタッフといった、ほとんど身内で固められている。

立喰師列伝

・月見の銀二………………………吉祥寺怪人(押井の雑談相手という模型雑誌の編集者)
・ケツネコロッケのお銀…………兵藤まこ(押井の実写作品ではお馴染みの声優)
・哭きの犬丸………………………石川光久(プロダクションI.G.代表取締役)
・フランクフルトの辰……………寺田克也(イラストレーター)
・中辛のサブ………………………河森正治(アニメ監督・メカデザイナー)
・牛丼の牛五郎……………………樋口真嗣(アニメーター)
・ハンバーガーの哲………………川井憲次(押井作品ではお馴染みの作曲家)
・冷やしタヌキの政………………鈴木敏夫(スタジオジブリ代表取締役社長)
・マッハ軒の店主…………………品田冬樹(造形師)
・予知野屋・ロッテリア店長……神山健治(アニメ監督)

上記の面々は顔出しだけで声は声優が担当しており、山寺宏一、榊原良子、立木文彦らのお馴染みベテラン勢で固めている(そう言えば、ロッテリアの店員役で水沢史絵なんかも出ていたな)。意外にも千葉繁は出演していなかった…。
もちろんオイラでさえ顔を知らない人もいたのだが、寺田克也や河森正治、川井憲次、樋口真嗣、そして鈴木敏夫が出てきた時には思わず吹き出しそうになったわい。
撲殺されるジブリの社長(押井作品では二度目の殺され役)や、踏みつけ蹴られまくるプロダクションI.G.の社長などに、何かしら意味を感じずにはいられないが、やっぱりそういう意味があるのだろうねぇ。
でもこれも訳知りのオタクにしか楽しめないトコ。月見の銀二が天英世でないのはいかにも残念だなんて言っても一般人には通じまい。

こうしたオタクにもに通じる記号を知り得る術を持たぬ一般人が、ナレーションのみの動きの少ない映像で起承転結のない映画を104分も観て楽しめるか、甚だ疑問である。

一般ウケしそうなのは、予知野屋とロッテリアあたりかな。
食べ物を主題にしながら、遂に一回も「ウマい」という台詞が出てこないし、現代を代表するコンビニやラーメン屋という店舗が登場しないことは興味深い。

結局トコロ、とどの詰まりは、月見の銀二が説教によって無銭飲食を実現したゴトの技術は、実はこの映画の観客に対して使われいるという構図なワケだ。つまり、その虚飾に彩られた一見いかにも理屈の通っていそうな膨大な哲学的ナレーションによって、観客は映画館の入場料をかすめ取られたのである。この作品が商業映画ではなく、押井の個人的映画の色が強いので、余計にゴトにはまった感が残る。